日本昔話の旅76(新潟県燕市)
標準語テキスト版
協力:燕市立図書館
製作:公益財団法人伊藤忠記念財団
風の神と子ども
むかしむかしのことです。
ある秋の日、 村では、 おとなはみんな田んぼや畑に出て、 子どもばかりが、 お堂様に集まって遊んでいました。
そこへ、 村では見たこともない人が、 ふらりとやって来て、
「お前たち、 お堂様で遊んだところで、 何も食べるものがないだろう。
梨や柿がいっぱいなっていて、 栗もいっぱい落ちているところへ遊びに行きたくないか。 お前たちにいくらでも食べさせてやるが、 どうだ」 と声をかけてきました。
「ほんとかい。 ぼく、そんなところなら、いってみたいな」
「わたしも行きたいな。 あんた、うそ言うな」
「本当だとも。 行きたいなら、 おれが連れてってやるぞ」
とその男は、 尻から尻尾のような長いものを ずうっとひっぱり出して、
「さあお前たち、 これにまたがって、 しっかりつかまっていろ。 みんな乗ったか」 と後ろをふり向いて言いました。
「ああ、みんな乗ったよ」
みんなが答えると、 ゴーッとひと風吹かせて、 天に舞い上がりました。
天の中をコウコウと飛んで、 子どもたちが夢中でつかまっているうちに、 栗や梨や柿が、どっさり実っているところへおろしてくれました。
子どもたちが、 こんなところもあったのかと、 色づいたなりものを見上げていると、 その男は、 またひと風吹かせて、 栗やら梨やらをバタバタと落としてくれました。
みんな喜んだのなんの。 おなかいっぱいになるまで食べました。 そのあと男も、いっしょになって遊んでいました。
あたりが暗くなりかけると、 急にいらいらして、
「うっかりしているうちに、 もう夕方になってしまった。 おれはこれから大急ぎで、 ほかのところへ行かなくちゃならないから、 お前たちだけで家へ帰れよ」
と言いおいて、 前よりも、 もっと速い風をザアザアと吹かせて、 どこかへ見えなくなってしまいました。
子どもたちは、 びっくりしてエンエンエン泣きだしました。
そのうちに山がまっ暗に暮れてしまうと、 ひとところだけ、 あかりがぴかぴか見えてきました。
「あそこの家へ行って頼んでみたら何とかなるかもしれない」
と相談して、 みんなでからだをくっつけ合って、 ごんごんと歩いて行きました。
「ごめんください」
戸をあけると、 家からぼたぼた太った大きなおばあさんが出てきました。
「お前たち、 どこから来たんだ?」
「ぼくたちはよその男の人に、 何だか長いしっぽのようなものに乗せられて、 風に乗ってここへ来たんだ。
そうして栗や梨や柿をいっぱいごちそうになったけれど、 急にその人がどこかに行ってしまって、 ぼくたちは家へ帰れなくなったんだ」
「そうか、 その男はうちのむすこの南風だ。 ほんとに気まぐれな子で、仕方がない。 わたしは風の神の親だ。 すぐに、 うちの息子に、お前たちを送らせるから、 心配はいらないよ」
そう言って子どもたちを家の中に入れて、 炊き立てのまっ白いごはんと、 あったかいとうふ汁をごちそうしてくれました。
みんな喜んで食べて、 体があたたまったところで、 風の神の親が、
「兄さん、 起きろ、 起きろ。 南風がこの子どもたちをおいてけぼりにしたそうだ。 お前、送ってやりなさい」
と北風の兄さんを起こしてくれました。 みんなが北風の尻尾に乗せてもらうと、 北風もやっぱりゴオッと風を吹かせて、 天に舞いあがりました。
村では、 夜になっても子どもたちが帰って来ないと大さわぎをして、 そこら中を探しているところでした。 そこへ天の片隅から急に北風が吹いてきて、 子どもたちが帰って来ました。
村の者たちは大喜びしました。
これで、めでたしめでたし、 おしまい。
風の神と子ども
日本昔話の旅76(新潟県燕市)
文 :燕市立吉田図書館
絵 :新潟県立吉田特別支援学校
音訳:燕語りの会 近嵐京子
協力:燕市立図書館
製作:令和4年12月 公益財団法人伊藤忠記念財団